君へ

高校3年生の進路に迷う君へ。|「大学って“唯一の正解”じゃないよ」部長が考え方を示す。

チャイムが鳴り終わる余韻の中、部長は教壇に軽くもたれて言った。

部長
部長
「将来のこと、考えてる?」

前の席の高校3年生が肩をすくめる。

「うーん、あんまり。とりあえず大学かなって」

「なんで大学?」

「正直、よくわかんないです。大人が“いい大学→いい会社”って」

部長は小さく笑う。優しいけど、少しだけ棘がある。

「それも選択肢の一つ。でも、全部じゃない」

部長は続ける。

「部長も大学を目指した。でもお金の現実があった。だから働いた。会社員も、アルバイトも、公務員もやった。点から点へ移りながら、スキルを磨いて貯金して、自分の足で立つ感覚をつかんだ。大学は“たった一つの手段”だよ。誰かの『大学がいい』『正社員になれ』を、そのまま自分の人生に貼り付けなくていい」

教室の空気が静かになる。

「じゃあ、俺たちはどうすれば?」

「“とりあえず”を、“仮決め+小実験”に変える。それが心ヨガ部のやり方だ」

学生の立場をまず理解する

迷って当たり前だ。18歳で世界の全部が見えている人なんてほぼいない。不安は情報の霧から生まれる。親の期待、先生の視線、進路表のチェック欄、SNSのキラキラ。どれも君の人生に影響するけれど、舵を切るのは君自身だ。

わからない時は、自分がダメなのではなく、材料が足りないだけ。材料を集め、少し試して、また集め直す。これが“考える”の正体だ。心配は正常。放置が危険。

大学は“目的”があって初めて強い

大学が最高の選択になる人は確かにいる。明確な専門を深めたい、研究したい、資格要件を満たす必要がある、全国規模のネットワークに身を置きたい。そういう“目的”があるなら大学は強い。

でも「レールに乗るため」「周りが行くから」だと、時間とお金が“保留”に変わる。保留は悪ではないが、覚悟がない保留は“惰性”になる。部長は惰性に厳しい。優しさの反対は怒りじゃない。無関心だ。自分の人生に無関心でいる癖だけは、今ここで断ち切ろう。

他の選択肢の“リアル”

働くから学ばないわけじゃない。学ぶ形が変わるだけだ。

就職して学ぶ

現場でスキルが立ち上がる。時間単価を体で覚え、交渉や段取りの土台がつく。夜はオンラインで基礎科目や英語、ITを回す。学費は給料から。学びが即日で仕事に反映される“往復運動”が強い。

専門学校・職業訓練

目的が明確なら短距離走で武器を作れる。制作物や資格という“見える証拠”が残るから、ポートフォリオ勝負に強い。

公務員・自衛官・公共分野

安定だけが魅力じゃない。社会基盤を支える使命感と、規律の中で培うリーダーシップは一生もの。配属や転勤のリアルも含めて、自分の生活デザインとすり合わせると価値が見える。

ギャップイヤー×計画学習

一年間、働きながら“自分カリキュラム”を回す。インターン、ボランティア、短期滞在、オンライン講座。戻って大学へ進む選択だって良い。行かないと決めるのも良い。留保ではなく“意図的な停止”に変える。

オンライン学習×ポートフォリオ

今は作品と実績で扉が開く分野が多い。デザイン、映像、プログラミング、ライティング。月ごとに1つ作品を作り、3か月で3点、半年で6点。見せる力は履歴書以上の説得力を持つ。

副業・小さな起業

“売る”を早い段階で体験すると、社会とお金の流れが立体で見える。いきなり大勝ちしなくていい。1000円を自分で生み出す経験は“生きる筋力”になる。

決め方のフレームはシンプルでいい

なぜやるのか

将来の肩書きではなく、日々の行動の“好き嫌い”を言語化する。人前で話すのは好きか。黙々と作るのは苦にならないか。身体を動かすのが得意か。

何を一年で伸ばすか

科目より“スキル名”で決める。文章力、数理基礎、英語運用、動画制作、コーディング、プレゼン、体力とメンタル。一年で一本、柱を立てる。

制約の現実

学費と生活費、家の事情、地理、健康。制約は敵じゃない。設計条件だ。条件があるほうが、いい設計ができる。

7日で進路の霧を晴らす“小実験”プラン

一日目

スマホを置いて、紙に“いま興味があること”を10個書く。きれいにまとめない。勢いでいい。

二日目

興味トップ3それぞれの“稼ぐまでの道筋”を調べ、無料教材や基礎動画を30分ずつ触る。触ってみると、体が嫌うか好むかがわかる。

三日目

近所で働ける短期・単発の仕事を一つ体験し、時給と疲労と学びをメモする。労働感覚は現実検知センサー。

四日目

ポートフォリオづくりの種を一つ植える。1000字の文章、30秒の動画、簡単なウェブページ、なんでもいい。“完成”を一つ出す。

五日目

進学・就職・公務員・専門の先輩や大人に15分だけ話を聞く。固定観念を1つ壊す質問を用意する。「一番つらい瞬間は?」「やめたくなる理由は?」

六日目

家計の計算。学費、家賃、食費、通信。数字は味方。紙に書いて、見えるところへ貼る。

七日目

“仮決め”をする。来月からのアクションを一行で宣言する。「バイトを週2で入れて、夜は英語と動画編集」「公務員の過去問を毎日30分」「専門学校のオープンキャンパス2校予約」仮でいい。仮で動く人が、最短で修正できる。

親や先生と衝突しない話し方

結論を急がず、材料を見せる

「今は“大学=唯一の正解”だとは思っていません。七日間でこういう実験をして、こう感じました。来月はこの仮決めで動きます。三か月後に再評価します」

相手の不安の正体は“見えない未来”。見える材料と見通しを差し出すと、応援に変わる。

尊重の言葉を先に置く

「アドバイスくれてありがとう。否定したいんじゃなくて、より納得した形で同じゴールに向かいたい」

責任の引き受けを言葉にする

「結果が良くても悪くても、私の選択として受け止めます。だからこそ、まずは仮決めで小さく始めます」

お金の話を避けない

進学でも就職でも、毎月の出入りを数字で見える化する。学費や奨学金、家賃、交通費、教材費、通信費。収入はバイトか給料か。差し引きいくら残るか。余剰は自己投資の燃料になる。

“時間×集中力=価値”。心ヨガ部では、余剰時間を“ただ休む”ではなく“回復と鍛錬”に半々で使うことを推奨する。疲れを抜き、柱のスキルを磨く。これが地味に効く。

もし大学へ進むなら“惰性対策”を

一年目から学びの現場を外へ延長する。授業と並走して、作品、インターン、発信、資格。履修計画は“空き時間の用途”まで設計する。大学を“場所”で終わらせず、“機能”として使い倒す。

もし働くなら“学びの設計図”を

業務時間外の90分を“固定枠”にする。平日は基礎、休日は作品。三か月ごとに作品を棚卸しし、転職や昇給の交渉材料にする。収入は“使途の意図”で価値が変わる。未来を買う使い方に寄せる。

まとめ:レールは借り物、舵は自分

大学でも、就職でも、専門でも、公務員でも、どの道にも“壁”はある。大事なのは、壁を選ぶのが自分であること。誰かの正解で自分の人生を借りないこと。

迷ったら、仮決めして小さく動く。動けば、霧は薄くなる。これは約束だ。